参議院 厚生労働委員会 第2号
○山本博司君 公明党の山本博司でございます。
本日は、原爆症の認定基準の見直しについてお伺いをしたいと思います。
三月十七日に、疾病・障害認定審査会の原子爆弾被爆者医療分科会におきまして新しい審査の方針が決定をいたしました。これは、昨年八月以来、被爆者の早期救済を図るために与党の原爆被爆者対策に関するプロジェクトチームの一員として取り組み、広島や愛媛や香川などの大勢の被爆者の皆様にもお会いをし切実な声をお聞きをした者の一人として、大変意義深いものと考えております。しかし、被爆者の立場からは、これでは切り捨てられるのではないかとの危惧の声もございます。そこで、本日は見直しの内容について確認をしたいと思います。
まず初めに、今回の新しい審査の方針について主な概要を御説明いただくとともに、これによって具体的に年間で何人認定される人が増えるとお考えになるのか、お答えいただきたいと思います。
また、平成二十年度予算の中で原爆被爆者の援護に関する予算の概要についてお聞きをしたいと思います。
○政府参考人(西山正徳君) お答え申し上げます。
この新しい審査の方針につきましては、今先生御指摘のとおりでございまして、昨年でありますけれども、安倍前総理の発言を受けて、私ども専門家に集まっていただきまして検討をいたしました。また、与党のPTの提言もございまして、これらを踏まえまして原爆被爆者医療分科会において決定をしたものであります。四月からこの方針に基づいて審査を行いたいと考えています。
具体的には、まず一点目でありますけれども、爆心地から約三・五キロ以内で直接被爆した者、あるいは原爆投下より約百時間以内に約二キロ以内に入市した者等の一定の範囲の者が、がんですとか白血病、それから副甲状腺機能亢進症、放射線白内障、それから放射線起因性が認められる心筋梗塞について申請した場合には、格段に反対すべき事由がない限り、積極的に認定をしたいというように考えております。また、それ以外の方々についても、様々な要因を総合的に勘案して、個別にその起因性を総合的に判断して認定を行いたいと。
予算の関係でありますけれども、原爆被爆者援護対策予算については、平成二十年度予算案におきまして約一千五百三十六億円を計上しております。このうち医療特別手当、現在の認定に関する手当でございますけれども、これまでの十倍になります年間約千八百人が新たに原爆症の認定となる見込みで、予算案としては七十九億円を計上しているところでございます。
○山本博司君 ありがとうございました。
約十倍の千八百名に増えるということでございますけれども、これまでなぜ認定者がなかなか増えなかったかといえば、爆心地から距離を基にしての被爆者が浴びた放射線量などを推定をしてがんや白血病などの発症リスクを算出する方法である原因確率を基にした基準を採用していたからでございました。しかし今回、これを、原因確率を改めていますけれども、なぜ改めたのか、理由を説明していただきたいと思います。また、改めたということは、これまでの考え方が誤っていたのではないか、また反省すべき点があったのではないか、こういう御指摘もございますけれども、どのように考えているのか、お答えいただきたいと思います。
○政府参考人(西山正徳君) お答え申し上げます。
この原爆症の問題でありますけれども、いわゆる法律に定められた要件であります放射線起因性、放射線に起因しているというようなことを判断するにつきましては非常に難しい問題でございます。原因確率という手法は、既存の集団的データを基に統計学的手法、すなわち確率論を用いて放射線起因性の寄与率、確からしさを計算していくというような手法でございまして、国際的にも一定の評価を得ております。
ただ、今般、原因確率をめぐる様々な批判もございました。また、被爆者の高齢化も進んでおります。こういうことに配慮いたしまして、また与党PTの御提言等を踏まえまして、より簡便な手法、すなわち爆心地からの距離及び時間を基に判断する、より簡便な手法に切り替えていったらどうかというようなことでございます。
○山本博司君 この点につきましては、与党PTにおいても、これまでの裁判の例とか世論を踏まえて現実的な救済が早急に行われるということを検討してまいりました。今回の見直しを一応評価をしたいと考えております。
それでは、今回、与党PTの取りまとめを踏まえて新しい審査の方針が決定したことを基本的に舛添大臣はどのようにとらえているのか、御見解をお聞きしたいと思います。
○国務大臣(舛添要一君) これは、安倍総理の御発言を受けまして、厚生労働省の中にも専門家の委員会を設ける、それから与党のPTの皆さん方も精力的に御検討くださったわけですから。やはり御高齢の方が増えているということで、迅速かつ積極的に前向きにこれは認定を行っていく、そういう方針をきちんと打ち立ててそれを実行に移すわけですから、そういう意味で被爆者の援護法の精神にのっとっているというように感じておりますので、積極的に認定を図っていきたいと思います。
○山本博司君 ありがとうございました。
次に、新しい審査の方針では積極的に認定する範囲を定めていますけれども、この範囲に該当する場合以外の申請についてもその起因性を総合的に判断すると、こうしております。この場合、いわゆる個別救済の範囲をどのように考えているのか、お示しをいただきたいと思います。
○政府参考人(西山正徳君) 新基準におきましては、積極的に認定を行う範囲の者以外の申請につきましても個別総合的に判断を行うというようなことで明記されております。すべての申請につきまして様々な要素を勘案して審査を行っていきたいと。個別救済についてはどれだけの者が認定されるかということについては、実際に審査を行ってみないと分からない点がございます。
いずれにしましても、新基準に基づきまして来年度以降速やかに審査を行い、適切に認定を行っていきたいというふうに考えております。
○山本博司君 また、これまでの司法判断、これによって、裁判所が原爆症と認めた被爆者が新基準でも積極的に認定する範囲に入っていないために、個別の判断の中で排除される可能性もあります。また、今後の裁判においても新基準で却下されるケースが認定されるようなことになれば、ダブルスタンダードになる可能性も指摘をされております。そのような司法の判断との不整合に対しましてどのように大臣は対応していく考えか、お考えをお聞かせいただきたいと思います。
○国務大臣(舛添要一君) これは実は非常に難しい問題ですが、地方裁判所レベルで、大阪、広島、名古屋、仙台、東京、熊本と、判決が既に出ております。全部、その基準というか、裁判所の判断というのは、何を基準にどういうふうに判決を下したかというのはこれはまちまちで、そこから一つの明確な基準を酌み取ることはできません。したがって、しかも、裁判所が第一審で下した判決のときにはこの認定の新しい基準はできておりません。
したがって、今まずやるべきことは、新しく決まった認定基準で来年度、四月から積極的に認定をしていくということをこれはまずやらないといけない。そういう意味では、司法の判断と今回の認定基準は直接的なリンクは全くない形でできたわけですから、認定基準は認定基準として、新しい基準でもってきちっと認定をしていく。
さらに、たしか五月に今度は高裁レベルの判決が出ます。そうしたら、じゃ、その高裁レベルが判決するときに今度の認定基準を勘案して判断するのかしないのか。それも、これは三権分立ですから、司法の判断によるわけです。だから、これはあらかじめ予見することはできません。しかし、その判断が下されたときには、それはそれを参考にして、行政の方もどう考えるかということはやらないといけないと思いますが、今取りあえずやることは、新しい認定基準に基づいて、司法の判断とはリンクさせない形で、きちんと積極的にできるだけ多くの人を救うという観点から認定をしていくべきだと、こういうふうに考えております。
○山本博司君 ありがとうございました。
少なくとも、司法が認定をした範囲は確実に救済をされるような運用の中での配慮が大事だと考えております。大臣、この点大変重要な点でございますので、しっかり対応をしていただきたいと思います。
さらに、与党PTの取りまとめでは、がん及び白血病に関しては放射線起因性が極めて高いことから、すべてのケースにおいて最大限の配慮を行うものとすると、このように記載をしておりましたけれども、しかし、新しい審査の方針には、がん、白血病については時間や距離の制限を設けております。全員救済を目指した与党PTの考え方を今後どのように具現化するおつもりか、お示しをいただきたいと思います。
○政府参考人(西山正徳君) がんと白血病につきましては、これまでの科学的知見に照らしましても、他の疾患と比べて放射線との関連が医学的にもあるいは国際的にも明らかだというふうに考えております。また、これまでの認定例でもがん及び白血病は数多く認定されてきているところであります。
与党PTに記載されていました最大限に配慮というような言葉でありますけれども、これらの疾患については格段の反証のない限り積極的に認定すべきものと、このような理解で進めていきたいというふうに考えております。
○山本博司君 与党PTの提言の全員救済という考え方を踏まえて対応を是非していただきたいと思います。
次に、認定審査の体制についてお伺いをいたします。
毎年約千八百名近い認定をするのには認定審査の迅速化が重要でございます。今後、審査体制をどのように強化するお考えなのか、また分科会の委員の人選をどのように行うつもりなのか、お答えをいただきたいと思います。
○政府参考人(西山正徳君) これまでの審査におきましては、一つの分科会ですべての申請を処理してまいりました。やはりこれは時間的にも非常に掛かりますので、一つ目としまして、分科会の下に四つの部会を設けたいと。積極的認定の範囲にある疾病の審査を行うこととし、併せて委員の増員を図りたいと考えております。
それから二点目でありますけれども、事務局において、これまでの分科会の審査に照らしおおむね原爆症の認定を受けることができると考えられる者につきましては、原則分科会、部会に諮ることなく認定処理を行いたいというふうに考えております。このことについては、先般の原爆の分科会において了承をいただいたところでございます。
こうした見直しによりまして、これまでの待機者の審査及び今後の申請者の増加にも対応していくことができるものと考えていまして、早急に体制整備を進めてまいりたいと考えております。
また、二点目のお尋ねでありますけれども、分科会の委員につきましては、真に被爆者の実態を理解する者と、こういった方を加えるべきだというような御意見がございました。これを踏まえまして、現在の委員に加えて、広島、長崎において被爆者医療の経験を持つ医師などを加えたいというようなことで現在調整を進めているところでございます。
○山本博司君 与党PTの取りまとめの中でも、この医療分科会に関しましては、今の在り方を改めて、真に被爆者の実態を理解する者を加えて、十分客観的かつ事実に即した審議を行うことができるような審議体制とすると、このように提言をしてございます。この趣旨を十分お酌み取りいただいてお願いをしたいと思っております。
次に、今後の見直しに関しまして何点か御質問したいと思います。
五月以降には札幌地裁、仙台高裁、大阪高裁で判決が予定されておりますし、先ほどもございましたけれども、四月からこの新しい方針を運用したとしても裁判は継続される可能性が高くなっております。これまでの司法判断を踏まえて、国が控訴を取り下げたり和解することも選択肢の一つではないかと考えますけれども、今後、被爆者団体とか原告弁護団の方々との協議をどのように取り組むお考えか、お聞きをしたいと思います。
○政府参考人(西山正徳君) 被爆者団体の方々とは、二月十八日に第一回、これは私も出席いたしました。その後、三月五日に第二回、それから三月十四日に第三回の協議を行っております。
〔委員長退席、理事家西悟君着席〕
今後も、必要に応じまして協議を続けさせていただきたいということを通じまして、団体の方々の御意見を聴取してまいりたいというふうに考えております。
○山本博司君 見直しの点でもう一点。
この新しい審査の方針では、随時必要な見直しを行うと、このようにしてございますけれども、どのようにとらえているのか、具体的にどういった場合に見直しの検討に入るのか、お聞かせいただきたいと思います。
○政府参考人(西山正徳君) この見直しにつきましては、昨年十二月の与党PT、直近の科学的知見、専門家の意見等を踏まえ、その後一年ごとに必要に応じ見直しを行うという提言がなされました。医療分科会の先生方とお話を申し上げまして、新しい科学的知見の集積等の状況を踏まえて随時必要な見直しを行うものとされたところでございます。
したがいまして、今後、医療分科会におきまして、疾病と放射線に関する科学的知見、これは内外を問わないわけでありますけれども、そういったものの集積状況を見ながら必要に応じて方針の見直しの検討を行ってまいりたいというふうに考えております。
○山本博司君 最後に、大臣にお伺いをしたいと思います。
この原爆症認定問題だけでなく、在外被爆者が被爆者健康手帳を来日しなくても申請、交付できるようにする課題など、原爆被爆者を取り巻く課題は山積をしております。昨年の十月十七日にも、韓国、アメリカ、ブラジルなどの在外被爆者の皆様と署名と要請を持って大臣のところにもお伺いをしたと思います。
戦後六十年以上が経過をして被爆者の平均年齢は七十五歳に近づいており、これ以上後回しにすることは許されません。被爆者救済の理念に立って一刻も早い手厚い対策を講じていくべきと考えます。原爆被爆者問題の抜本的な解決に向けての舛添大臣の決意をお伺いをしたいと思います。
○国務大臣(舛添要一君) 原爆症の認定につきましては、これは先ほど来御答弁申し上げていますように、新しい基準に基づいて迅速に対応してまいる。
それから、海外の被爆者の皆さん方、これは今委員御指摘の、私も直接お会いいたしました。今までは日本に来ないと被爆者手帳をもらえない、それ来ないでいいようにするということで、今国会に法律案が出されておりまして、この審議を早めていただきまして、この成立の暁にはきちんとそういうことも対応して、今まさにおっしゃったように御高齢の方が増えておりますから、一日も早い解決に全面的に取り組んでまいります。
○山本博司君 以上で質問を終わります。
ありがとうございました。