参議院 財政金融委員会 第16号 令和4年6月7日

第208回国会 参議院 財政金融委員会 第16号 令和4年6月7日

○山本博司君 公明党の山本博司でございます。
 本日は、日銀の報告に関して質問させていただきます。
 初めに、現状の基本的な認識に関して伺いたいと思います。
 日本銀行は、四月二十八日の金融政策決定会合におきまして、長短金利操作、いわゆるイールドカーブコントロールの下での金融市場調整方針につきまして、現状維持とすることを決定した次第でございます。これは、二〇一三年四月の政策委員会・金融政策決定会合で量的・質的金融緩和、いわゆる異次元の金融緩和政策を導入して以来の政策を継続するということでございます。
 そこで、まずこれまでのこの金融政策を継続する理由、アメリカを始めとして世界各国がこの金利の引上げを行う中で我が国はこのような判断に至った理由について、総裁から御説明いただきたいと思います。
○参考人(黒田東彦君) 各国の金融政策は、もとより自国の経済、物価の安定を目指して行っております。
 FRBやECBと日本銀行の金融政策のスタンスの違いも、米欧と我が国で経済・物価情勢が大きく異なっているということを反映しております。すなわち、米欧ではコロナ禍からの景気の回復が進む下で労働需給が引き締まっておりまして、直近の消費者物価の上昇率は米国ではプラス八・三%、ユーロ圏ではプラス八・一%まで高まっております。
 一方、我が国の経済はGDPが依然としてコロナ前を下回るなど、感染症による落ち込みからの回復途上にあります。その中で、最近は資源価格上昇による海外への所得流出という下押し圧力も受けております。物価面では、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は四月にプラス二・一%まで上昇しましたが、エネルギー価格の上昇を主因とするものでございます。
 こうした我が国の経済・物価情勢を踏まえますと、日本銀行としては現在の強力な金融緩和を粘り強く継続して、経済活動をしっかりとサポートすることが何よりも重要であるというふうに考えている次第でございます。
○山本博司君 ありがとうございます。
 こうした金融緩和政策を継続する中におきましても、我が国では原油等の資源価格や小麦等の穀物価格が高騰して、さらにウクライナ情勢の影響もあり、いわゆるコストプッシュ型の物価上昇が発生をしている次第でございます。これにより家計や中小企業など幅広いところに影響が及んでいて、状況によっては戦後最悪の危機を招くおそれもあると言われておりましたので、政府では総合緊急対策を取りまとめて、その財源の裏付けとして、先月末には補正予算を成立させることができた次第でございます。
 まずはこうした物価上昇の影響を食い止めるために対応しなくてはなりませんが、我が国におけるこのコストプッシュ型の物価上昇は一時的なものなのかどうか、それともいつまで続いていくと見られているのか、ここが大きなポイントになると思います。
 これに対しまして日銀では、物価が継続的に上昇するとは考えていないと判断をしていますけれども、この判断の根拠、そしてこのコストプッシュ型の物価上昇はいつ頃には解消されていくと考えているのか、お聞きをしたいと思います。
○参考人(内田眞一君) お答え申し上げます。
 四月に公表いたしました展望レポートでは、消費者物価の前年比につきまして、二〇二二年度はエネルギー価格の大幅な上昇の影響によりまして一旦一・九%まで上昇率を高めますが、来年度、二三年度は、それから二四年度、この二年度につきましてはプラス一・一%と、プラス幅を縮小すると予想しております。このように二%程度の上昇率が継続しないということは、今総裁から申し上げましたとおり、現在の消費者物価の上昇がエネルギー価格の上昇を主因とするものであるためでございます。
 先行き、原油などの資源価格につきましては、これは海外の中央銀行あるいは国際機関と同様でございますが、先物価格などを参考にしながら想定を置いておりまして、現在、そうした原油価格等は先行きは緩やかな低下に転じていくというふうに見込んでおります。
 ただ、展望レポートでも申し述べておりますが、資源価格の動向をめぐりましては先行きの不確実性が極めて高いというふうに認識しておりまして、引き続き、我が国経済、物価に及ぼす影響を注意深く見ていきたいと思っております。
○山本博司君 先ほど申し上げましたように、この物価高騰に対しまして、政府では六兆二千億円の総合緊急対策をまとめて、また二兆七千億の補正予算を成立させました。こうした経済政策が今後の経済の下支えに資するものと大いに期待しております。
 また、日本銀行法の第四条では、「政府の経済政策の基本方針と整合的なものとなるよう、常に政府と連絡を密にし、十分な意思疎通を図らなければならない。」、こうございますけれども、こうした財政政策と金融政策の連動という点も大変重要なことであると考えます。
 そこで、ウクライナ情勢も予断を許さない状況でございますけれども、日本銀行として我が国の経済の見通しをどのように見ているのか、確認をしたいと思います。
○参考人(内田眞一君) お答え申し上げます。
 同じく四月の展望レポートでございますが、我が国の実質成長率につきましては、二二年度が二・九%、二三年度が一・九%、二四年度は一・一%と、我が国の潜在成長率を上回る成長が続くというふうに予想しております。
 御指摘のとおり、ウクライナ情勢等を受けまして資源価格が上昇しております。このことは、資源輸入国であります我が国にとりましては海外への所得流出につながるということでございます。家計の実質所得あるいは企業収益の下押し要因として作用するというふうに思っております。
 一方で、感染症や供給制約の影響が緩和していくことに伴いまして、これまで抑制されてきた需要、すなわちペントアップディマンドが顕在化していくことによりまして、我が国経済の回復が明確になっていくというふうに考えております。政府による原油価格高騰対策等もこうした経済の下支えに寄与するというふうに思っております。
 もとより、こうした見通しをめぐりましては、何より内外の感染症の影響、それからウクライナ情勢、さらには米国等の金融引締めが国際金融資本市場や海外経済にどういう影響を与えるのか、様々な不確実要因がございますので、こうした点を見ていきたいというふうに思っております。
○山本博司君 次に、為替に関して伺いたいと思います。
 金融緩和を継続して、我が国の経済活動、これを下支えするということでございますけれども、この金融緩和の継続が他の国の金利の引上げの状況と相まって、結果として円安を引き起こしているという指摘もございます。
 昨日、為替が一ドル百三十一円を超えておりますけれども、円安が進めば、海外から輸入するエネルギーや穀物などの価格が更に割高になり、様々な影響が懸念をされているわけでございます。
 金融政策は為替を目的としていないということは十分承知しております。また、為替相場は経済、金融のファンダメンタルズを反映して安定的に推移することが望ましいということは十分認識しておりますけれども、この金融政策と為替相場との関連性への認識、御答弁をいただきたいと思います。
○参考人(内田眞一君) お答え申し上げます。
 冒頭、総裁から申し上げましたとおり、各国の金融政策はそれぞれの経済・物価情勢に応じて実施されるものでございまして、我が国の経済におきましては金融緩和による下支えが必要な状況にあるというふうに考えております。
 その上で申し上げますが、為替相場は内外の金利差からもちろん影響を受ける面がございますが、それだけではなくて、その背後にある経済や物価情勢の違い、さらには国際金融資本市場の動向や企業の輸出入からの需給、そういった様々な要因によって変動いたします。これらのうち、どの要因が為替相場に影響を与えるか、これはその時々の経済あるいは市場の状況によって変わり得るものだというふうに思っております。
 全く先生御指摘のとおりですが、日本銀行といたしましては、為替相場は経済のファンダメンタルズを反映して安定的に推移することが望ましいというふうに考えております。最近見られますような短期間で大幅な円安が進行するということは、先行きの不確実性を高め、企業による事業計画の策定を困難にするものでございまして、望ましくないというふうに考えております。
 引き続き、為替相場の変動が我が国経済それから物価に与える影響に十分注意しながら、現在の金融緩和を粘り強く継続することによりまして、我が国の、我が国経済の回復をしっかりとサポートしてまいりたいというふうに思っております。
○山本博司君 ありがとうございます。
 次に、財務省に伺いたいと思います。
 五月十九日から二十日にドイツで開催されましたG7財務相・中央銀行総裁会議では、為替につきまして鈴木財務大臣から発言がございました。その結果、過度の変動や無秩序な動きは経済や金融の安定に悪影響を与えるといった点を含むこれまでの合意事項を再確認すると、こうした旨の共同声明で明記されたというふうに伺っている次第でございます。
 欧米各国では、この金利の引上げ、これが相次いでおりまして、ドル高各国通貨安というこの急激な為替の変動が起きている中でのこのG7各国とどのような意見調整があったのか、注目されたかと思います。
 こうした為替に関する発言をあえてされた理由、そしてG7の間でドル高各国通貨安に対しましてどのような議論があったのか、副大臣に確認をしたいと思います。
○副大臣(大家敏志君) 山本先生の御質問にお答えをいたします。
 鈴木財務大臣は、先ほど御指摘されたとおり、五月十九日と二十日の二日間にわたってドイツ議長下のG7財務大臣・中央銀行総裁会議に出席をされました。
 お尋ねの為替につきましては、大臣から、最近の相場の急速な動きについて説明をした上で、こうした中、G7として為替政策に関する合意事項を再確認することが重要であること、日本として、この合意に沿ってG7でも緊密な意思疎通を図りつつ、為替の問題に適切に対応していく考えであることを発言されたと承知をいたしております。
 こうした議論を基に今般取りまとめられた共同声明では、過度の変動や無秩序な動きは経済や金融の安定に悪影響を与え得るといった点を含め、これまでの合意事項を再確認する旨が明記され、G7各国ともこの考え方が共有されたと承知をしております。
 他国の発言についてはコメントは差し控えたいと思っております。
 以上であります。
○山本博司君 ありがとうございます。
 為替につきましては、急激な変動が様々に影響、大きな影響を与えることになりますので、着実な対策を講じていくということが重要であるかと思います。まずは、この物価高騰に対しまして、そこから企業収益の改善、また雇用の拡大、賃金の上昇、それに併せて物価が上昇していくという本来あるべき形に転換をして、これまで目指してきましたこの物価安定目標、この二%の達成に向けて取り組むこと、ここが大変大事だと思う次第でございます。
 そこで、この物価安定目標二%の達成に向けて日銀として今後どのように取り組むおつもりなのか、黒田総裁にお伺いをしたいと思います。
○参考人(黒田東彦君) 日本銀行は、単に物価が、物価だけが上昇すればよいという考えではありませんで、あくまでも企業収益や雇用、賃金が増加する中で物価も緩やかに上昇するということを目指しております。こうした好循環の中で二%の物価安定の目標を持続的、安定的な形で実現するためには、現在の金融緩和を粘り強く続けることで、賃金と物価が共に上昇しやすいマクロ経済環境をつくり出していく必要があるというふうに考えております。
 実際、日本銀行は、二〇一三年以降、二%の物価安定の目標を採用して、大規模な金融緩和を推進することで経済は大きく改善し、物価が持続的に下落するという意味でのデフレではない状況となったわけであります。
 そうした上で、昨年の点検でも様々なシミュレーションを行いまして、この大規模な金融緩和によって実質GDPが押し上げられ、さらに消費者物価の対前年比も同様に押し上げられたということが示されております。
 このように効果を発揮してきた金融緩和を今後も継続することで、先行きは四月の展望レポートで示したとおり、消費者物価は変動の大きい生鮮食品とエネルギーを除いたベースで二〇二四年度に一%台半ばまで上昇率を高めていくというふうに考えております。
 日本銀行としては、引き続き、現在のイールドカーブコントロールを軸とする金融緩和を粘り強く続けていくことで我が国経済を支えて、二%の物価安定の目標の持続的、安定的な実現を目指してまいりたいというふうに考えております。
○山本博司君 ありがとうございます。
 ここで財務省に伺いたいと思います。
 日銀がこの物価安定目標二%の達成に向けて御尽力いただくことは大変意義のあることでございますけれども、この金融政策とこの財政政策、これはマクロ経済政策においての車の両輪であるわけでございます。よって、日銀と財務省それぞれが自主性を重んじた上で方向性を同じくして政策を前に進めていく、これが肝要であると思います。
 そうした中で、家計の実質所得が増加する中で物価も上昇するというこの好循環を目指す上でとても重要なことは、賃金の上昇ということでございます。我が党としても、この持続的な賃金の上昇が一丁目一番地であるということで、重点政策として訴えているところでございます。
 今年度の税制改正では賃上げ税制を推進しましたけれども、人や設備への投資、これで労働環境を改善する企業への支援を行って、我が国全体の生産性を向上させ、持続的な賃金上昇を加速化すべきと考えます。この賃金の上昇につきまして財務省としてどのように取組を進めるつもりなのか、答弁をいただきたいと思います。
○副大臣(大家敏志君) 山本先生にお答えいたします。
 岸田内閣において、所得の向上につながる賃上げは、成長と分配の好循環により持続可能な経済を実現するための重要課題の一つであります。
 そのため、政府としては、賃上げに向けてあらゆる施策を総動員することとしており、賃上げ税制の拡充に加え、看護、介護、保育等の公的価格の引上げ、補助金による中小企業の生産性向上のための支援、公共調達における加点措置、下請対策の強化など、中小企業が適正な価格転嫁を行うための環境整備、次に最低賃金の見直しなどの施策にしっかりと取り組んでいきたいと考えております。
○山本博司君 是非よろしくお願い申し上げたいと思います。
 続きまして、観光政策に関して伺いたいと思います。
 この観光政策は、国内消費の喚起策の一つとして大変重要な役割を担っていると思います。コロナウイルス感染症への対策として長い間我が国への外国人観光客の受入れを制限してまいりましたけれども、この六月から入国が再開されることになりました。このビジネスを目的とした外国人の旅行消費額、コロナ前はおよそ五兆円から一千二百億円と激減をしているところでございます。その意味では、この円安を追い風として海外からの観光客が増えれば、コロナの環境で疲弊した観光地が復活できるのではないかと大いに期待をしているところでございます。
 そこで、国土交通省にお聞きをいたします。この感染状況が改善をし、ワクチンや治療薬の普及などにより感染の抑制と消費活動の両立を進めていく中で、この外国人観光客の入国再開、どのように進めていくのか、答弁をいただきたいと思います。
○政府参考人(大野達君) お答え申し上げます。
 政府といたしましては、感染拡大の防止と社会経済活動のバランスを取りながら、段階的な水際措置の緩和を進めているところでございます。
 今月一日からは、入国者総数を一日一万人目途から二万人目途に拡大するとともに、コロナウイルスの流入リスクの低い国については入国時検査を行わないとしたところでございます。
 また、観光庁におきましては、外国人観光客の受入れ対応に関して訪日観光実証事業を実施いたしまして、その結果を踏まえて外国人観光客の受入れ対応に関するガイドラインを策定したところでございます。本日、このガイドラインを公表いたしまして、関係者に周知したところであります。
 まず、旅行代理店等を受け入れる責任者とする添乗付きのパッケージツアーに限り、今月十日より外国人観光客の受入れを開始する予定となっております。
 この先の外国人観光客の更なる受入れの拡大につきましては、段階的に平時同様の受入れを目指すということとしておりまして、国内外の感染状況等を踏まえながら、水際関係省庁を始め、政府全体で検討してまいります。
 観光庁におきましては、訪日観光は我が国経済活動や地域活性化にとって極めて重要な分野と考えております。こうした考え方を水際関係省庁にもお伝えしつつ、政府の一員として水際対策の在り方について検討してまいりたいと考えております。
○山本博司君 こうした外国人観光客の受入れには、感染症対策万全としてこの受入れ体制の整備が不可欠でございますので、しっかりとお願いをしたいと思います。
 この国際観光旅客税に関しましては、平成三十一年一月一日からスタートし、我が国が、出国する旅客から出国一回につき千円を徴収し、これを国に納付するものでございます。コロナ禍におきまして減収を余儀なくされてまいりましたけれども、観光産業の再生を目指すためにも、この国際観光旅客税を観光財源として大いに活用して受入れ体制を整備すべきと考えます。
 そこで、今年度の国際観光旅客税を活用した観光庁予算の概要に関して答弁いただきたいと思います。
○政府参考人(大野達君) お答え申し上げます。
 国際観光旅客税を充当する事業の予算額につきましては、新型コロナウイルス感染症の影響によるインバウンドの落ち込み等によりまして、令和二年度の五百四十億円をピークに、令和三年度が三百億円、今年度、四年度が九十億円となっております。
 今年度の事業につきましては、この限られた予算の中で、これからのインバウンドの回復を見据えまして、外国人観光客がストレスフリーで快適に旅行できるよう、円滑な出入国等の環境整備、ICT等を活用した多言語対応などの観光地の受入れ環境整備の高度化などの取組を進めますとともに、地域での体験滞在の満足度向上を図るため、歴史的な文化財等を活用した観光コンテンツの創出や国立公園における廃屋の撤去、あるいは景観改善などの滞在環境の上質化などの取組等を関係省庁と連携して進めることとしております。
 観光庁といたしましては、これからのインバウンドの回復に向けて、こうした取組のほか、日本への入国が可能となった国・地域に対する効果的なプロモーションなど、必要な取組をしっかりと進めてまいりたいと考えております。
○山本博司君 是非ともこの予算活用して環境整備に取り組んでいただきたいと思います。
 最後に、財務省にお聞きします。こうした感染拡大の防止と消費活動の両立に向けた財務省の決意を最後にお聞きしたいと思います。
○副大臣(大家敏志君) 山本博司先生御指摘のとおり、感染拡大の防止と消費活動を含めた経済社会活動の両立を図っていくことは重要であると認識をしており、政府としては、新型コロナへの対策については、感染拡大の防止と経済社会活動のバランスを取りながら、水際対策も含め段階的な緩和を進めております。
 そのような中で、足下の物価高騰等が経済社会活動の回復の妨げにならないよう、先般、総合緊急対策を作成したところであり、盛り込まれた施策を迅速に実行することにより、コロナ禍からの経済社会活動の回復を確かなものとしたいと考えております。
 引き続き、新型コロナへの最大限の警戒を維持しつつ、政府一丸となって経済社会活動の回復に向けて取り組み、日常生活を取り戻してまいります。
○山本博司君 以上で質問を終わります。ありがとうございました。