片目失明者に支援を 不自由多いが「手帳」なし 

片目失明者に支援を 不自由多いが「手帳」なし

 「健常者と障がい者の“はざま”に立たされている」。こう語るのは「NPO片目失明者友の会」の久山公明代表(74)だ。現行の基準では、片方の目を失明しても、もう一方の矯正視力が0・6を上回っていると身体障がい者として認定されないが、暮らしの中では、さまざまな不自由が生じているという。片目失明者が直面している困難に迫った。

 片目を失明すると、視野が30度程度狭くなるほか、立体視ができず、遠近感も取りにくくなる。ペンなどの物をつかみ損ねて“空振り”してしまう、お湯をコップに注ごうとして自分の指にかかってしまい、やけどする……。日常生活での困り事は多い【図参照】。

 久山代表は「不自由さに個人差はあるが、ちょっとした段差につまずいたり、見えない側が死角となり、人にぶつかって怒られたりすることがよくある。見える目を酷使するので目薬は手放せないし、眼精疲労から、片頭痛や肩こりも出やすい」と指摘する。

 こうした不自由な実態がある一方、身体障害者福祉法の規定では、見える目の矯正視力が0・6以下の人しか身体障がい者として認めていない。久山代表は「身体障がい者であれば利用できる制度があり、最低限の保障を受けられる」と話す。

■高額な義眼、経済的負担重く

 片目失明者の中には義眼を使用している人も多い。ただ、義眼に健康保険が適用されるケースは眼球を全摘出した場合のみ。眼球が一部でも残っていて、コンタクトレンズのようにかぶせるタイプは美容目的とされ、全額自己負担となる。

 一方、身体障がい者の認定を受けていれば、義眼の購入費を支給する「補装具費支給制度」を利用でき、原則1割の自己負担で購入できる。義眼の耐用年数は2年程度で、全額自己負担だと作製費用は15万円前後に上るという。

 久山代表は「幼児期などでは、義眼の使用により、発達の過程で生じる顔の左右差を防ぐことも期待できる。しかし、成長に応じて2~3カ月ごとに更新する必要がある。義眼の経済的な負担を軽減してほしい」と訴えている。

■学校や職場でいじめ、差別も

 さまざまな生活上の困難に加えて、偏見や社会の無理解などで苦労する場面もある。

 同会のアンケート(会員208人が回答)では、学校や社会生活で、いじめや差別を受けたことがあると回答した人が約6割に上った。

 具体的には「容姿をからかわれた」「仲間はずれにされた」「就職試験の面接だけで落とされた」などが多かった。

 このほか、「障害者手帳を取得できないことを理解してもらえない。手帳の不所持が怠慢によるものだと誤解され、職場で責め立てられた」との切実な声も寄せられた。

 同会は、片目失明者は資格の取得や就職の面で制限があるほか、子どもの場合、保育施設の入所を断られるケースがあるとして「当事者や家族は、さまざまな場面で課題に直面する。一人で悩まず、当会に相談してほしい」と呼び掛けている。

■公明、政府に対応訴え

 公明党は、5月30日に岸田文雄首相へ提出した提言で「さまざまなハンディキャップのある片目失明者の支援について、当事者の意見を聞きながら、対応を検討すること」を求めるなど、当事者が直面する課題の解消に向けて取り組んでいる。

 4月23日には、伊佐進一厚生労働部会長と佐藤英道の両衆院議員、山本博司参院議員が衆院第1議員会館で久山代表らと意見交換。公明議員は、眼帯を着けて片目が見えない状態を体験するとともに、障がいの認定基準見直しと義眼の経済的負担軽減などで要望を受けた。

 これを受け、5月13日の衆院決算行政監視委員会第3分科会で佐藤氏は、片目失明者に対する支援を要請。武見敬三厚労相は、片目失明者らへの支援方法に関する厚生労働科学研究を実施中であることに言及し「当事者の声をしっかり伺い、調査研究を進めたい」と答弁した。

 伊佐厚労部会長は「国の研究も注視しつつ、今後も片目失明者に対する政府の対応を求めていく」と語っている。

2024/08/14 公明新聞 3面