老朽化「水管橋」の安全確保を/水道網守る対策が急務
老朽化「水管橋」の安全確保を/水道網守る対策が急務
全国で水道施設の老朽化を背景にした事故が増えている。10月初旬には和歌山市で水管橋の一部崩落に伴う断水が発生し、周辺住民の日常生活に大きな影響が出た。同市の調査委員会メンバーで和歌山大学システム工学部の江種伸之教授のコメントも交じえ、現状を追った。
10月3日、和歌山市の紀の川に架かる「六十谷水管橋」の一部が崩落した。水管橋は、紀の川の南側にある浄水場から川の北側に水を送る唯一の供給路だ。この事故により、市内の紀の川以北約6万世帯(約13万8000人)で断水が発生。市は水管橋の近くに架かる県道の橋に仮の水道管を設置し、6日後に給水再開にこぎ着けた。
水管橋は長さ約550メートルで1975年に建設された。上部のアーチから「つり材」と呼ばれる鉄製の棒で水道管をつり下げる構造になっていた。水管橋の法定耐用年数は48年。市が事故後の10月6日にドローン(小型無人機)で調査したところ、つり材に腐食による破断が確認された。
市は毎年1回、水管橋上の管理通路を歩いて目視で点検を実施していた。今年5月の点検では、破断は確認できなかったという。市は専門家4人による調査委員会を設置し、崩落部分の調査や原因の分析を進めている。今月9日には、水管橋の崩落部分の架け替えなど、本復旧に着手し、来年6月中の完了をめざしている。
■公明後押し、補助制度新設
和歌山市の水管橋事故を受け、公明党は国と地方の連携で矢継ぎ早に取り組みを重ね、政府や行政の迅速な対応を引き出した。
市議会公明党(中尾友紀幹事長)は事故翌日の4日には、早期復旧への支援などを求める緊急要望を取りまとめ、浮島智子衆院議員(党和歌山県本部顧問)を通じて斉藤鉄夫国土交通相(公明党)に提出。断水地域への給水車の緊急派遣につながった。5日には浮島氏、県・市議が現地を調査し、尾花正啓市長から応急措置を含む復旧工事への支援要請も受けた。
こうした動きも受け、上水道を所管する厚生労働省は8日、全国の水道事業者らに、水管橋の総点検および修繕など必要な措置を講じるよう通知した。11日には山本博司厚労副大臣(当時、公明党)が尾花市長から復旧工事にかかる経費への財政措置に関する要望を受け、厚労省は27日、敷設後40年以上を経過した水管橋の補強や耐震化に必要な事業費の3分の1を補助する制度を新設。補助事業は和歌山市の水管橋復旧工事に適用される見通しだ。
■施設の更新は低水準で推移/厚労省
水源から各世帯をつなぐ水道網のうち、河川の両岸を管でつなぎ送配水を担うのが水管橋だ。厚労省は和歌山市での事故を機に安全対策を進めるため、全国の水道事業者らと協力し、水管橋の箇所数など実態把握に乗り出している。
水管橋をはじめ水道施設の老朽化対策は待ったなしだ。1960~70年代の高度経済成長期頃から普及し始めた国内の水道管の総延長は全国で約72万キロ(2018年度)。このうち、法定耐用年数40年を超えた管路の割合を示す管路経年化率は上昇の一途で、18年度は17・6%に達した【グラフ参照】。厚労省によると、19年度に起きた漏水・破損事故は約2万件に上る。
市町村の水道事業は財政難を背景に、更新のスピードが上がらないのが現状だ。08年度に0・88%だった水道管の更新率は、18年度は0・68%に低下するなど、低水準のまま横ばいが続く。現状では全ての水道施設を更新するには計算上では145年以上かかることになる。
■広域連携進め財政基盤強固に/和歌山大学・江種伸之教授
水管橋の崩落事故を防ぐには、まず鉄製の橋にダメージを与える腐食を食い止めることがポイントとなる。そのためには塗装が有効だ。点検の優先度としては耐用年数を超えた橋や海岸近くの橋などは早急に進めてほしい。更新や改修に比べ時間や予算も抑えられるだろう。
管路だけでなく、水管橋を含む水道施設全体の老朽化をチェックする体制強化も求められる。腐食を含む部材の劣化や損傷を察知するため、ドローンなどデジタル最新技術のさらなる利活用を勧めたい。
維持管理を行う水道事業者の財政基盤を拡充するため、事業者間の広域連携は有効な手段になる。内外の成功事例を参考に民間企業との協力を拡大していくことも選択肢の一つだ。
2021年11月27日 公明新聞3面